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地名の揺れを店名に採用するのはシステムで呑み込んでほしい


地名には、「ヶ」と書いても「ケ」と書いても通じるものがたくさんある。場合によっては「が」や「ガ」になり、さらにそれらが一切付かないことすらある。それでも日本人は、だいたい何事もなかったかのように読み、理解し、待ち合わせをする。

ところが、この穏やかな共存関係は、チェーン店の店名になり、モバイルオーダーの検索対象になった瞬間に崩壊する。

モバイルオーダーでは、注文先の店舗を自分で探して指定しなければならない。ここで、「あの店が見つからない」という現象が発生する。店が存在しないわけではない。人間の世界には、確かに存在している。

ただ、文字が違うだけだ。

たとえば「イチガヤ」と入力すると、多くの場合「市ヶ谷」と変換される。しかし、店名は「市ケ谷」だ。その結果、正しく入力したつもりなのに、検索結果は静まり返る。こちらが何か間違えたような空気になる。

では、なぜ店名は「市ケ谷」なのか。どうやら駅名に合わせたということらしい。

イチガヤ駅は、JR東日本と東京メトロでは「市ケ谷駅」、都営地下鉄では「市ヶ谷駅」となっている。駅ですら意見が分かれている。一方、地名としてのイチガヤを見ると、「市谷◎◎町」がずらりと並び、「ヶ」も「ケ」も付かない。

つまり、「市ヶ谷」「市ケ谷」「市谷」は、日本語の世界ではだいたい同じ顔をして暮らしている。

ニッポン人の中では。

この手の表記の揺らぎは、昔から存在していたが、特に問題にはならなかった。看板を見れば分かるし、口に出せば通じる。多少違っても、誰も気にしない。

しかし、それをデータにすると話が変わる。

  • 「ヶ」と「ケ」は別の文字である。
  • だから別物である。
  • 以上。

この判断は、非常に真面目で、非常に正しい。そして、その正しさが、そのままシステムに実装される。

文化的な事情は、たいてい仕様書に書かれていない。仕様書に書かれていないものは、存在しないことになる。

結果として、「ニンゲンには同じだが、システムには違う」という世界が、完成する。誰もサボっていないし、誰も間違えていない。ただ、誰も困る立場にいなかっただけだ。

だからといって、「市ヶ谷」「市ケ谷」「市谷」を全部登録しよう、という話になると、それはそれで別の悲劇が始まる。チェック項目が増え、表記を確認し、また増え、気がつくと本業が何だったか分からなくなる。

必要なのは、もっと単純な話だ。「ヶ」と「ケ」を同じものとして扱う。それだけで、多くの人が救われる。余裕があれば「が」や「ガ」も仲間に入れてあげればいい。

この問題は、半角と全角、ハイフンの有無といった、あの手の問題とよく似ている。人間にとっては誤差だが、システムにとっては大事件だ。

地図アプリで、正式名称を知らなくても目的地にたどり着けたとき、便利だと感じるのは偶然ではない。人間が曖昧であることを、最初から諦めて作られているからだ。表記の揺れで検索できない地図アプリには、やはりイライラする場面もある。

正式名称でなければ検索できない設計は、「利用者は常に正式名称で指定するはず」という、かなり楽観的な世界観に基づいている。少なくとも、日本の地名については。

日本語がややこしいのではない。それをそのまま使おうとすると、少しだけ無理が出るだけだ。

なんなら検索エンジンが提供する検索機能を組み込むだけでも、充分に役立つ。費用対効果は見込めるだろう。保守の手間もあまりかからない。

UIデザイナーの活躍する場面なんだけど。ここでユーザーインターフェース(UI)がきちんとしているとユーザーエクスペリエンス(UX)が高まることはわかりますね?

1ヶ月の「ヶ」は、カタカナではない!!


Posted in デザイン, 難しい日本語
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